3.

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「葵ちゃんは、最近どうなの?」 とフミくんが私の方を真っ直ぐに向いて尋ねるので、私は戸惑ってしまった。 話の流れからして、恋愛のことを聞いているのだというのはわかる。だけど、今日ふたりに伝えようとしていた一言が、どうしても出てこなかった。 『私、もうすぐ結婚するんだ』という、その一言が。 香澄は喋りたいだけ喋ると、腕をテーブルの下にだらんとさせて、気持ちよさそうに突っ伏して寝てしまった。私はちらりと香澄を見て、フミくんに視線を戻す。 「私のことはいいよ。今日は二人の幸せな話をたくさん聞けたから、充分。ごちそうさまでした」 困ったように笑って見せたのは、『聞かないで』という合図のつもりだ。 結局、私は彼氏ががいるとも、いないとも、結婚のことも、なにひとつ大切なことを言えなかった。 だけどどちらにしたってフミくんにとっては関係のないことだし、きっと彼は、私の恋愛事情にそこまで関心もないだろう。 彼にとってそれは、天気の話と同じくらいの意味合いでしかないのだから。 私が結婚するといえば彼は笑ってくれるだろう。私が大好きだった笑顔で。 わかっている。馬鹿みたいなことを考えるのはやめろと、自分自身が言っている。 それでも、どうしても、かつての片想いの相手に、現在の恋人の話をする気にはなれなかった。 たとえ、目の前にその人の恋人がいるとしてーーそれは、私には関係のないことだ。
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