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酔いつぶれた香澄をタクシーで先に送ると、次は私のアパートに向かった。
再び街がすべり出す。あちこちに光るイルミネーションやツリーを通り過ぎ、人気のない住宅街を進んでゆく。静かで冷たい夜の景色の中に、私とフミくんのふたりだけが残されているような気がした。
「香澄の部屋に泊まっていけばよかったのに」
私は言った。
「そんなことできないよ。葵ちゃんを先に送り届けないと」
「相変わらず紳士だねえ、フミくんは」
「そんなことないよ」
ふいに、フミくんの声色が変わった気がしてどきりとしたが、
「俺、明日用事あるからさ。今のは、ちょっとカッコつけてみただけ」
あはは、と照れくさそうに笑うのを見て、私もほっとする。
今日だけで何度もフミくんが笑うのを聞いていたけれど、笑い方は本当に変わらないな、と改めて思った。
香澄の前で、彼はどんなふうに笑うのだろう。
ふたりのとき、香澄は彼に、甘えたりするのだろうか。
普通の恋人同士みたいなことを、したりするのだろうか……。
うまく想像できなかった。自分が拓馬とするようなことを、このふたりがしているなんて。
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