3.

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「じゃあ、今日はありがとう」 私がタクシー代の千円を差し出して言うと、フミくんはそれを受け取らずに、 「部屋まで送るよ」 と言った。 「え、いいよいいよ、悪いし」 と断る素振りをしたが、悪い気はしなかった。部屋の前まで送ってもらうくらいいいよね、と、単純に考えていた。 タクシーをアパートの前につけて、階段で三階まで登る。 ーーかん、かん、かん、かん、かん、 階段の音が、まるで私の心音のように辺りに響いている。ゆっくりと、着実に、上昇してゆく。 「キレイなとこだね」 と言ったフミくんの手が、一瞬だけ、わたしの手の甲に触れた。そっと、風を撫でるような触れ方だった。 「そうかな。まあ、新しいほうなのかな?」 自分が何を言っているのか、よくわからない。 ずっと早めだった鼓動が、益々波を打つ。 私は必死に言い聞かせる。自分の立場を考える。落ち着かなければ。 ーーフミくんは友達だ。フミくんの彼女も友達だ。そして私には、大切な婚約者がいる。 だけど……。 今、この場で、それはどれほどの意味をもつのだろう。 この胸の高まりの正体を言葉にすることで、私は何を得て、何を失うのだろう。
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