3.

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「ねえ」 と、フミくんは言った。彼の左手は、私の右手を、しっかりと捉えている。 「上がってもいいかな?」 私は前を向いたまま、えっ、と声にならない声を出す。 いくら鈍感な私でもわかる。部屋に上げるということはーー大切な人を裏切るということだ。 動けなかった。動けない。手を振り払うことも、握り返すこともできない。 フミくんは手を離すと、今度は腰に手を回してくる。彼の細身の身体が、私の背中にぴたりとくっついている。背中が、真冬だというのに、じわりと汗ばむのがわかった。 そして彼はーー、信じられないことを言った。 「月曜日に会ってからさ、俺、ずっと葵ちゃんのこと、気になってたんだ」 「え?」 私はあんまり驚いてつい後ろを振り向き、さらに驚いた。 彼は微笑んでいた。まるで、悪いことなど何も言っていないように。 私の知らない声は続ける。私の耳元で、そっと、囁く。 「正直、今は香澄よりも」 香澄よりも? さっきまで、あんなに香澄のことが大切だという顔をしていたのに?
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