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「鍵あるんだから、中に入ってればよかったのに。風邪ひくだろ」
「うん……そうだよね」
ごめんね、そう思ったのと、拓馬の声が、重なった。
「ごめんな」
苦々しい顔で、拓馬は言う。
私はびっくりしてその顔を見つめた。
私の隣にすとんと腰を下ろして、彼は続ける。
「この前、言いそびれたから。話、ちゃんと聞いてなくてごめん。当たったりしてごめん。不安だったんだ。俺、色々ちゃんとやれるかなとか思って……情けないよな」
そう言う拓馬はなんだかいつもより素直で、目は赤く、少し潤んでいる。お酒には強いはずだから、結構飲んできたのかもしれない。
「ううん、私のほうこそ、嫌な言い方してごめんね」
拓馬のまだ熱を持った手を、思わずぎゅっと握りしめていた。
「つめた……」
彼は笑いながら、私の手を、もっと強い力で握り返してくれた。
ーーー大丈夫だよ。
ーーー心配しなくていいよ。
そんな声が聞こえた気がした。
優しい、拓馬の声。
拓馬と知り合った頃、こんなふうになるなんて、思いもしなかった。
ぶっきらぼうだけど、私が落ち込んでいるときは、真っ先に気づいて励ましてくれた。
そんな優しさが好きだった。
ずっと一緒にいたいと思った。
でもその一方で、変化が怖かった。
ふたりの関係や環境、色々なことが変わっていく中で、大切な何かを失ってしまう気がした。
だけどそれは、私だけじゃなかったんだ。拓馬だって、同じだったんだ。
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