SS2【微笑む女】

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 同窓会から数日経った休日。  十年ぶりに会ったクラスメイトの顔も、幸枝はまた記憶の奥にしまい込み始めていた。  思い出したところで、あの頃が何かの物語のように輝く青春時代になることなど決してない。  いつも賑わう教室の中で、ほとんど時間をひとりで過ごし、それを望んでそうしているかのように本で顔を隠して、時々思い出されたように名前を呼ばれて顔を上げれば、『暗いよねぇ』『なぁんかあの辺だけじめっとしてない?』とこそこそ小声で囁かれていた、そんな中学時代。  美佳が声をかけてきたのも気まぐれで、ただ自分の話に頷いてくれる誰かがほしかっただけなのだろうと、幸枝は今でも思っていた。  それでも独りは嫌だから、彼女から連絡あれば、喜んだふりをしている。  いや、実際、嬉しいことには違いなかった。  彼氏と別れて、時間潰しに連絡をくれるとしても、美佳は確かにまだ自分のことを気にかけてはくれている存在には違いないのだから……  美佳と同じ機種のスマホが鳴った。  アプリの通知音だ。  連絡してくる相手は、両親か美佳だけで、両親ならば電話をかけてくる。  美佳だ、と思った。  ――が。 「真利子?」  アプリ画面を開けば、連絡先がひとりしか入っていないはずのそこに、友達追加と真利子からのメッセが書き込まれていた。 〈美佳ちゃんから教えてもらいました。勝手に追加してごめんね。この前はゆっくり話せなかったから、お茶できないかなと連絡しました。〉
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