前途多難な初仕事

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出だしからの、物凄いスピードの連奏。 クロード・ドビッシー作曲。 ピアノ二重奏の為の曲、『白と黒で』。 三つの楽章から成る曲で、いま二人が弾いているのは、第一曲、『Avec emportement 【無我夢中で】』だ。 三曲中、この曲が演奏的には一番難しい。 出だしの始まりは早いし、曲想は激しく変化していくし、二人で合わせるのも凄く難しくて、至難の技巧を必要とする曲だ。 跳躍的でダイナミックなこの曲は、ピアノ二重奏の中でも人気のある曲だけど、演奏者である二人のピアニストの息が合わないと、なんともお粗末な曲になりやすい。 いや、それを言えば、他の曲だって全てそうなんだけど。 耳を澄まして、音を聴く事に集中する。 ……まただ。 感じた違和感に、思わず険しい目で北川さんを見る。 音を抜いて、支障がない程度に誤魔化して演奏してる。 でも、その所為か、きっちり弾きこなしている成瀬さんとの音のバランスが悪くて、物凄く気持ち悪い。 他の人が聴いても、そんなに気にならないのかもしれないけど……。 演奏している北川さんの表情を見るけど、本人は全然気にしている様子もなく、寧ろ自信満々な顔で弾いてる。
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