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「悪いが、君の言っている事に実用性を感じない。感情論は、好きじゃない」
成瀬さんは、怒っている訳じゃない。
冷静に俺の話を聞き、冷静にはね付けただけだ。
きっと、価値観の違いなんだと思う。
「君は、確か月山の演奏を好んでいるんだったな」
「はい…」
どうして、ここで月山薫の名前が出るのか、戸惑いつつも答えると、成瀬さんは手にしていたカップをテーブルの上に静かに置いた。
「俺には、全く理解出来ない。月山の演奏の良さが」
「なっ…!」
カッとなりそうになったけど、真剣な表情の成瀬さんを見て、怒りを無理やり飲み込んだ。
「演奏技術の事を言っているんじゃない。技術のみで言えば、奴は天才だ。それは認める」
あっさりと、月山薫の演奏技術を認めた成瀬さんに、カッとなりそうになった俺は、なんだか肩透かしを食らった気分になる。
「だが、奴の感情的な部分で演奏するやり方は好きじゃない。寧ろ最悪だと思っている」
「最悪…?」
あんなに凄い演奏を、まさか『最悪』なんて言われるとは思わなかった。
「確かに、最高の演奏もするんだろう。気分が良い時はな。だが、そうじゃない時はどうなる?メンタル部分で演奏に支障をきたさない保証なんて、どこにある」
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