前途多難な初仕事

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*前途多難な初仕事・5* 「で?大丈夫なのかよ?」 三國さんが早めに切り上げて帰った後、暫くして月山薫が、さり気ない様子で聞いてきた。 「あ、うん…まあ……頑張るしかないなって感じ」 溜息をつきそうになりながら答えると、隣に座る月山薫に、ポンポンと軽く頭を撫でられた。 「まっ、あんま根詰め過ぎねぇようにな」 「ありがとう…」 こんな、さり気ない一言が嬉しい。 さり気ない気遣いに、嬉しすぎて……好きすぎて、どうしようもなく胸が苦しくなる。 ジンジャエールの入ったグラスに口を付けながら、赤いであろう顔を隠すように俯く。 そんな時だった…。 「あ、あの!」 女性客二人が近付いて来て、月山薫に声を掛けた。 二十代半ばくらいだろうか。 綺麗に化粧して、着飾った彼女達は、頬を赤らめながら月山薫を見つめている。 嬉しさや喜びで浮き上がっていた気持ちが、一気に重苦しいものへと変化した。 ……そんな目で……そんな顔で、月山薫を見ないで欲しい。 みっともない嫉妬心に、きつく拳を握り締める。 「何か、弾いてもらいたいんですけど、駄目ですか?」
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