前途多難な初仕事

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そして、一瞬だけ…。 ぎゅっと強く握り締め、俺が袖を離すと、直ぐに離れて行った。 情けない顔で、離れて行く月山薫の背中を見送る。 月山薫の気遣いは嬉しい。 でも、寂しいものは寂しい。 折角、二人の時間だったのに。 そんな風に思うのは、やっぱりガキなんだろうな……。 変に落ち込む俺の耳に、月山薫のピアノの優しい音が入ってきた。 この曲……。 『My Pianist【私のピアニスト】』 俺が、月山薫をイメージして作った曲。 あいつの為だけに作った曲だ。 見ると、優しい表情をした月山薫が、時折、俺を見ながら演奏している。 その瞬間、胸が痛いくらいに高鳴った。 ……本当、あいつのああいう所ってズルいと思う。 このタイミングで、この曲を弾くとか、ズルすぎる。 あのズルさで、俺を魅了するんだ。 嬉しくて、笑顔で見ると、顔を上げてこちらを見る月山薫と目が合った。 甘い微笑みに、一瞬にして身も心も痺れる。 本当、ズルいよな……。 あんな表情で、俺の曲なんか弾かれたら、一瞬で堕ちるに決まってる。 俺の曲……。 …………俺の曲? あ、そうか、その手があった!
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