無自覚な罪作り

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*無自覚な罪作り・1* 「曲を?」 珈琲カップをテーブルに置いた成瀬さんは、驚いた表情を浮かべて、向かい側の椅子に座る俺を見た。 リハーサル終了後、新しい曲作りについて話したかった俺は、成瀬さんと一緒に、以前に来た事のある、スタジオ近くの喫茶店に来ていた。 「はい。ご迷惑じゃなければ、ですけど」 「君が作るのか?」 「そのつもりですけど、成瀬さんが嫌なら、勿論、断ってくれて構いません」 そう答える俺を、成瀬さんは驚きの表情のまま繁々と眺める。 「いや、断るつもりはないが……どうして、急にそんな事を?」 「……一番の理由としては、曲を通して、北川さんや成瀬さんに、色々と感じてもらえればって思ったり…」 俺が、こんな事を言うのも、なんだかおこがましく思えて、声がフェードアウトしていく。 それでも、監修を任されたからには、やれる事は精一杯頑張りたい。 それに……。 「それと……余計なお世話だと分かってるんですけど……曲のタイトル、『Mother【マザー】』にしようかなって…」 どんな反応をするか気になりながら話しているけど、成瀬さんは固まったように何も言わず、瞬きもしないで俺を見ている。
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