無自覚な罪作り

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「あ、あの、これ?」 「あぁ。寝冷えしても良くないだろうと思ってな」 答える成瀬さんは、カッターシャツ一枚だ。 五月の半ばとはいえ、風が吹けばそれなりに肌寒い。 「すみません!あの、これ、ありがとうございます」 慌てて、けど丁寧に扱いながらジャケットを返すと、成瀬さんは本を閉じて、袖に腕を通した。 俺の記憶が正しければ、この公園には一人で来て、一人でベンチに座っていた筈だ。 なんで、こんな体勢になったんだろう…。 「……あの、成瀬さんは、どうしてここに?」 「ん?本を買いに行った帰り、君がここで舟を漕いで寝ているのが見えてね。肌寒そうだったし、肩を貸した方が、君は楽かと思って。あのままだと、ベンチから落ちそうな勢いだったからな」 思い出したようにクスクスと笑う成瀬さんに、恥ずかしさから顔が熱くなる。 うわ、恥ずかしー……。 「……色々と、すみません」 「いや。それよりも…」 そう言葉を切った成瀬さんがズイッと近付いて来て、右手で俺の左頬に手を添えて、間近で俺の目を覗き込んでくる。 どうと思っていなくても、意識せずにはいられない、そんな近距離。
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