無自覚な罪作り

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「君が、俺の為に作曲を頑張ってくれている事は嬉しい……だが、身を削るような真似はして欲しくない。そんな君を見るのは、とても辛い…」 真剣な眼差しの成瀬さんに、心が痛んだ。 この人を、こんなにも心配させている……。 自分の振る舞いが、恥ずかしく思えた。 不健康なのは自分の責任だけど、その事で、誰かを心配させたり、悲しませるのは、絶対にやっちゃいけない。 大人なら、尚更だ。 本当、まだまだガキだな、俺って…。 「……すみません。もっと、自分の健康に気を配るべきでした。これからは、きちんとします」 「そうしてもらえると、俺としては嬉しい」 頭を下げて謝る俺に、成瀬さんは納得したように微笑んでくれた。 そうして、俺の前髪を、しなやかな指で優しく払ってくれる。 「そろそろ戻ろうと思うが、君はもう少し休んだ方がいいんじゃないか?」 「いえ!本当に大丈夫です!俺も戻ります」 これ以上、甘えてなんかいられない。 仕事は仕事で、きっちりやろう! 「そうか?」と、返した成瀬さんは、懐中時計を開けて時間を確かめると、本を手に立ち上がった。 「少し時間が過ぎている。急ごう」
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