無自覚な罪作り

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*無自覚な罪作り・5* 「別に、これで構わねーだろ。いちいち細かいんだよ。成瀬も、このガキに何か言えよ」 ウンザリしたように文句を口にした北川さんは、苛々しながら口の中のガムをクチャクチャと噛んだ。 矛先を向けられた成瀬さんは、表情には出さないものの、困ったように短く息を吐くと、広げていた楽譜を閉じた。 「北川、監修は彼だ。彼の指示通りに演奏してくれ」 「は?」 まさか、成瀬さんが俺の意見に賛同するとは思っていなかった様子の北川さんは、不機嫌な目で成瀬さんを睨んだ。 「お前だって、色々と言われてるだろ、このガキに」 「努力はしている。それをしようともしないお前に、彼をとやかく言う権利はないと思うが?」 冷静に言い放つ成瀬さんに、北川さんの苛立ちが強くなるのが分かった。 成瀬さんの綺麗な顔と、冷静な物腰は、相手にとても冷たい印象を与える。 そんな成瀬さんに、北川さんは馬鹿にしたように、「ハッ…」と息で短く笑った。 「どっかのちっさい所でやる、おままごとみたいな演奏会に、何そんなに必死になってんの、お前ら。流石、天才ピアニスト様は違うよなぁ?」
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