無自覚な罪作り

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成瀬さん、お母さんの事、北川さんに話してないんだ……。 北川さんの口振りから、ちらりと成瀬さんを見るけど、彼は至って冷静に北川さんを見ていた。 「金にもならねーような演奏会だろ?天才ピアニスト様が演奏するような規模じゃないよな、実際。それでも、天才、成瀬としては?慈善事業でも全力で演奏しますってか?適当にやってりゃいいだろ。どうせ、 クラシックなんて何にも分からねー客が相手だろ」 カチンときた。 適当? なんだ、それ。 あったま悪いんじゃねーの、この人。 「演奏するのに、場所が大きいも小さいも無いと思うが?何処だろうが、どんな客の前だろうが、最善の演奏を聞かせるのがプロのピアニストだと、俺は心得ている」 「……っ!」 成瀬さんの言葉に、北川さんがグッと押し黙る。 「彼に文句を言う前に、自分の演奏を省みるべきじゃないのか?」 諭すとか、説教するとか、そんな言い回しでも、口調でもなく、ただ淡々とした成瀬さんの言い方は、時として反感を買いそうだ。 人によっては、嫌味に聞こえてしまうかもしれない。 そして、北川さんには、嫌味にしか聞こえなかったようだ。
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