無自覚な罪作り

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ただ、我慢するとか、建前とか、その場を取り繕うとか、そういうのが出来ない性格なだけで。 本質は、誰よりも優しくて、誰よりも繊細なんだと思う。 そうじゃなきゃ、あの音は出せない。 短気だし、口悪いし、捻くれてるし、性悪な性格してるけど……。 もう少し、上手く立ち回れたらいいのに、そういうところは不器用な迄に真っ直ぐだ。 恋しい奴の顔を思い出し、自然と笑みが溢れた。 「何を笑っているんだ?」 いきなり声を掛けられて、ビクリと身体が竦んだ。 見てみれば、いつの間にか目を覚ました成瀬さんが、柔らかい微笑みを浮かべながら俺を見上げていた。 うわ、自分の世界に入ってて、気付かなかった……。 恥ずかしさに、顔が熱くなる。 「すみません、思い出し笑いをしてました…」 「謝る必要はないだろう」 照れてモゴモゴと口籠る俺を、成瀬さんは少し笑いながら、スッと手を伸ばして、俺の頬に優しく触れた。 「……とても綺麗な笑顔だった」 瞬間。 恥ずかしさに憤死するかと思った……。 思い出し笑いを見られただけでも恥ずかしいのに、それを『綺麗』なんて言われたら、恥ずかし過ぎて死ねる…。
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