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駅まで、他愛ない会話をして歩いた。
最初の頃には想像も出来ないくらい、成瀬さんの表情も物腰も、随分と柔らかくなったと思う。
北川さんにも、こんな風に接したらいいのに…。
まあ、俺も最初の頃は犬扱いだったけど。
先程の事を思い出せば、小動物扱いなんだから、そんなに変わってないか、と思い直す。
「それじゃ、ここで」
「はい。リハーサル、頑張って下さい」
駅に着くと、成瀬さんは違う行き先のホームへと消えて行った。
さて、俺も帰って作曲の続きしよ。
歩き出して数秒した時、携帯の着信音が鳴り出した。
画面の表示には、『月山薫』の文字が浮かんでいて、慌てて通話表示をタッチする。
「もしもし?」
『サルか?あのな……って、お前、外にいんのか?』
用件を話そうとした月山薫の声が、外の雑音が聞こえたのか、急に曇った。
「そうだけど?」
「リハーサル、とっくに終わってんだろ?なんでまだ外にいんだよ。作曲するんじゃなかったのか」
探るような月山薫の声に、あぁ、と思った。
本当なら、今頃は家で作曲活動をしている時間帯だ。
「それがさ、実は……」
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