無自覚な罪作り

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*無自覚な罪作り・7* 「…っ…!ってぇな……もっと…っ…優しく出来ねぇのかよ…」 「そ、そんな事…言われても……初めてだし…」 「……っ!下手くそっ…」 「それなら、自分でしろよ…!あっ…」 「つべこべ言わずにやりやがれ……手ぇ止めんな…もっと、そっと扱えよ…」 「っぁ…馬鹿、まだ動くな…!」 「…これでも我慢してんだよ……!」 「……もう少し……だから……っあ………っっっよっしゃ!!」 無事、耳垢をすくい出した俺は、達成感に小さくガッツポーズをした。 「やっとかよ……ほんと、ヘッタクソだな」 俺の膝の上に頭を乗せている月山薫が、耳を押さえながら文句を言ってくる。 「だから、初めてだって言っただろ。やった事ないんだから、下手に決まってんじゃん」 かかってきた電話の内容は、ピアノ室の汚さが、そろそろ限界だという報告だった。 つまり、掃除しに来いという、月山薫の理不尽な呼び出し電話だったわけだ。 拒否権なしと言わんばかりに、凄みのある声で、『今すぐ来い』と命令された。 俺は、お前の母さんか! なんてツッコミをしつつも、会える喜びにいそいそとやって来た俺も俺だけど……。 そして、玄関のドアを開けた俺を待っていたのは、除菌スプレーを手にした月山薫だった。
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