無自覚な罪作り

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*無自覚な罪作り・9* 『小旅行じゃねえかよ。まさか、泊まりとか言わねえだろうな?』 電話越しに、不満そうな月山薫のトゲトゲしい声が突き刺さる。 「昼間にリハーサルだから、夕方には帰れるよ。泊まりな訳ないだろ」 成瀬さんが用意した新しいリハーサル場所は、電車で約一時間半ほど離れた場所にあるらしい。 往復で、大体、三時間くらい。 月山薫が、『小旅行』と言うのも頷ける。 『何で、そんな所でリハーサルなんざやるんだよ。この辺なら、いくらでも場所なんてあるだろ』 そう思うのが普通だよな…。 北川さんも、かなりごねてたし。 事情を知っている俺は、成瀬さんの行動に納得出来るけど、そうじゃない人にしてみれば、全く理解出来ないだろうな。 天才の気まぐれとか、我儘なんて思われるに違いない。 弁護したくても、口止めされてるんじゃ、どうしようもないし……。 「なんでも、知り合いの人が経営してる所らしくて、環境が良いんだって」 北川さんに、これで納得しろっていう方が無理がある。 案の定、北川さんは文句ばかり言っていた。 『だからって、そんな遠くでやる意味、本当にあんのか?』
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