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間に入って取り成そうとしたけど、今度ばかりは無理だった。
誰の言葉も聞き入れない北川さんは、さっさと荷物を纏めて出て行き、その後を、引き止めようとする成瀬さんが追い掛け、そんな二人をどうにかしようと、俺も後に続いた。
「待て、北川!」
「これ以上、やる意味あるか?今日は、これ以上やっても、もうどうにもなんねーよ」
追い掛ける成瀬さんに、北川さんは振り向く事なく言い放ちながら足を進めて行く。
施設前にある川に架けられた橋に差し掛かり、半分ほどまで来た所で、ようやく成瀬さんが北川さんの肩を掴んだ。
俺も遅れながらも、そんな二人にやっと追い付く。
「離せよ!」
「まだ話は終わってないだろう。せめて、決めた時間までは、リハーサルを続けるべきだ」
そう言いながら、成瀬さんは懐中時計を取り出し、蓋を開けて時間を確かめる。
「後、四十分くらいある。それからでも…」
「………っ!」
あっ……!!
成瀬さんの言葉を無視した北川さんが、突然、成瀬さんの持つ懐中時計を奪い、あろうことか、それを橋の上から川に目がけて放り投げてしまった。
懐中時計は、キラキラと太陽の光を反射しながら、吸い込まれるようにして川の中へと落ちていった。
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