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「それじゃ、貴重な体験ですね。川遊びなんてする機会、そうそうありませんよ」
そんな風に戯けて言えば、成瀬さんは小さく笑った。
「確かに、貴重だな。滅多にない体験だ」
「でしょ?」
答えながら、川の中を移動して、違う場所を探してみる。
怪我をしないよう、靴を履いたまま中に入ったのはいいけど、帰りをどうしよう…。
なるべく絞って、周囲の白い目を堪えるしかないな。
そんな事を考えながら、手を動かしていた時だった。
「……あの懐中時計は、本当の親の物なんだ」
「え……?」
突然の成瀬さんの告白に、手を止めて身体を起こす。
「母親の物か、父親の物なのかは分からないが、養子に出される時、その時計だけ渡されたらしい。名前も何も彫られていないし、どんな意味があるのかは分からないが…」
そう呟いて、成瀬さんは小さく笑った。
とても寂しそうな、悲しそうな微笑み…。
「唯一の絆みたいな感じがして、ずっと持っていたんだ」
そんな大切な物……。
俺だったら、絶対に怒り狂ってる。
泣いてるかもしれない……。
俺の大切な物……。
例えば、月山薫から貰った万年筆。
想像してみて、胸がギュッと苦しくなった。
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