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二人で気が済むまで笑い合うと、成瀬さんがスッと手を差し出してくれた。
その手に掴まり、立ち上がる。
靴どころか、ズボンまで濡れた。
あー、ほんとカッコ悪いし、恥ずかしー…。
それにしても……。
ふっと、大きな満月を見上げる。
今日が満月で良かったな。
新月だったら、絶対に見付からなかった。
「奏…」
「え?」
不意に下の名前で呼ばれ、満月から成瀬さんの方へと顔を向けた。
すると、いつの間に近くまで来ていたのか、目の前に立つ成瀬さんに驚いて、半歩後ろに後退る。
綺麗な微笑みを浮かべた成瀬さんは、冷たく冷えた右手で、俺の左頬に触れた。
「ありがとう」
囁き声と共に、成瀬さんの顔が近付いて来た。
「…………」
………………え?
何が起きたのか、理解出来なかった。
一瞬にして、頭の中が真っ白になり、あれほど煩く鳴いていたカエルの声も、川のせせらぎの音も聞こえなくなる。
唇に触れたのが、何であるか理解するよりも先に、成瀬さんの綺麗な顔が離れた。
それでも、鼻先がぶつかりそうな、物凄く近い距離にある。
間近で俺の目を探るように覗き込んだ成瀬さんは、もう一度、近付いてこようとする。
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