無自覚な罪作り

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そこで初めて、パニックに固まっていた身体が、ようやく動いた。 「や……!」 両手で、成瀬さんの身体を押し返そうとした時だった。 !!!!!!!! 目の前の成瀬さんが、いきなり吹き飛んだ。 いきなりの出来事に、頭がついてこない。 そして、どういう訳か、目の前には酷く怒った表情の月山薫が立っていた。 「……月山…?」 口を突いて出てきた呼び声。 聞こえていないのか、聞く気がないのか、月山薫は俺を見る事なく、何処かを睨み付けている。 その視線を辿ると、川の中に倒れている成瀬さんの姿があった。 何が起きているのか……。 理解するよりも先に、月山薫が俺の右手を掴む。 「来い」 低い声でそれだけ言うと、俺を引っ張って歩き出そうとする。 パニックで固まった俺の身体は、上手く動いてはくれなくて、もつれる足に転けそうになるけど、月山薫は気にする様子もなく強引に引っ張って行く。 引っ張られながら体勢を何とか整え、後ろを振り返れば、頬を押さえながら上体を起こす成瀬さんの姿が見えた。 気を失った訳でも、頭を打った訳でもなさそうな様子に、ホッと安堵する。
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