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成瀬さんが大怪我するのも、月山薫が大怪我を負わせるのも、洒落にならない。
俺を連れて、川を出て、土手を上がって行く月山薫の背中。
その背中は、激しい怒りのオーラを発している。
真っ白になりそうな頭で、今の状況を必死に考えた。
…………成瀬さんに……キス…された……。
それを……月山薫に、見られた……?
その事を理解した瞬間、身体が震え出した。
月山薫に、見られた…!
「ち….違う……違う…!」
何をどう説明すべきなのか、どう言えばいいのか、混乱した頭では分からずに、その言葉だけが口から出てくる。
「月山…違う…俺っ……!」
「黙れ…」
俺を振り向きもしないで発した、吐き捨てるような月山薫の拒絶の言葉と声に、心臓が鷲掴みされたように痛んだ。
「……でも、俺…」
「喋んなっつってんだろうが!!!!」
もの凄い剣幕で怒鳴られ、思わず身体が竦み上がり、意識せず息を飲み込んだ喉がヒュッと強張る。
何度か、月山薫を本気で怒らせた事があった。
それでも、ここまで激怒した月山薫を見るのは初めてだ。
「………っ」
頭の中では、何か言わないと、と思うのに、喉が張り付いたように声が出てこない。
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