絡まる感情

2/37
前へ
/550ページ
次へ
*絡まる感情・1* 有無言わさず、月山薫は俺を車の助手席に乗せると、そのままドアを閉めてしまった。 そして、それからどれくらい経っただろう……。 月山薫は、運転席のドアの外で、ずっと一人で煙草を吸っている。 出会ってから今まで、月山薫が煙草を吸っている姿を見た事がなかった。 ピアノのランプ台に乗っている、灰皿に積まれた吸い殻の山、あちこちに転がっている煙草の空き箱から、ヘビースモーカーだろう事は知っている。 それでも、月山薫は、俺の前では煙草を吸った事がなかった。 その月山薫が、もう何本目か分からない煙草を、苛々した様子で吸い、紫煙を燻らせている。 車の中から、そんな様子を窺い見ながら、震える身体を、自身の腕で抱き締めた。 電話するって言ったのに……。 帰りが遅くなるとも、何処にいるとも連絡してなかった。 夕方には帰るなんて言ってたのに、夜遅くになっても帰らない、連絡もつかない……。 きっと、心配して、ここまで車を走らせて来てくれたんだ。 それなのに……。 さっき起きた出来事を思い返して、自分の腕にギリっと爪を立てる。 自分の迂闊さに腹が立つ。 なんで、キスなんてされちゃったんだろう……。
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3860人が本棚に入れています
本棚に追加