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*絡まる感情・1*
有無言わさず、月山薫は俺を車の助手席に乗せると、そのままドアを閉めてしまった。
そして、それからどれくらい経っただろう……。
月山薫は、運転席のドアの外で、ずっと一人で煙草を吸っている。
出会ってから今まで、月山薫が煙草を吸っている姿を見た事がなかった。
ピアノのランプ台に乗っている、灰皿に積まれた吸い殻の山、あちこちに転がっている煙草の空き箱から、ヘビースモーカーだろう事は知っている。
それでも、月山薫は、俺の前では煙草を吸った事がなかった。
その月山薫が、もう何本目か分からない煙草を、苛々した様子で吸い、紫煙を燻らせている。
車の中から、そんな様子を窺い見ながら、震える身体を、自身の腕で抱き締めた。
電話するって言ったのに……。
帰りが遅くなるとも、何処にいるとも連絡してなかった。
夕方には帰るなんて言ってたのに、夜遅くになっても帰らない、連絡もつかない……。
きっと、心配して、ここまで車を走らせて来てくれたんだ。
それなのに……。
さっき起きた出来事を思い返して、自分の腕にギリっと爪を立てる。
自分の迂闊さに腹が立つ。
なんで、キスなんてされちゃったんだろう……。
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