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……まあ、そんな想いも、本人に疑われてるんじゃ話にもならない。
盛大な溜息をつくと、眉を下げた佳介に、「奏~~」と泣きそうな声で呼ばれた。
佳介に付き添われるようにして大学を出た所で、いるはずのない相手の姿に目を見開いた。
「…………成瀬…さん」
「やあ」
左頬を赤紫色に腫らした成瀬さんが、大学を出た所に立っていた。
まさか、昨日の今日で会うとは思ってなかったし、今日はリハーサルの日じゃない。
全く心の準備が出来ていなかった俺は、パニックになりながら、その場に固まる。
「奏、知り合い?」
不思議そうに尋ねてくる佳介に、かろうじて、「……うん」とだけ答えた。
「君。ちょっと彼と話をするから、いいかな?」
「あ、はい…」
世界的ピアニストのオーラとでも言うんだろうか。
成瀬さんの有無を言わせないオーラに気圧されて、佳介は訳が分からないままに頷いた。
「奏、おいで」
促されるようにして声を掛けられたけど、正直、躊躇った。
昨日、あんな……あんな事をされたのに、二人になってもいいんだろうか…。
いや、でも、それって自意識過剰?
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