絡まる感情

24/37
前へ
/550ページ
次へ
「桜庭くん?」 「また来ますね」 呼び止める村沢さんの声を聞かなかったフリをして、無理やり作った笑顔で会釈して、逃げるように店を出た。 外に出ると、思い切り溜息をつく。 奮い立たせたなけなしの勇気が、木っ端微塵に砕け散る。 会って、話をしたかった。 月山薫の声が聴きたい。 偉そうな、人を小馬鹿にする月山薫に会いたかった。 ………笑顔が見たかった。 零れ落ちた涙を、手の甲で拭って夜空を見上げる。 俺……もう嫌われたのかなぁ…。 どこまでも暗い空に、堪えていた涙が溢れてくる。 会いたい……。 会いたいよ。 恋い焦がれる気持ちと、深く傷付く痛みに、これからどうすればいいのか分からず、途方に暮れるようにして、ただ涙を流しながら、夜空を見上げた。
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3860人が本棚に入れています
本棚に追加