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「桜庭くん?」
「また来ますね」
呼び止める村沢さんの声を聞かなかったフリをして、無理やり作った笑顔で会釈して、逃げるように店を出た。
外に出ると、思い切り溜息をつく。
奮い立たせたなけなしの勇気が、木っ端微塵に砕け散る。
会って、話をしたかった。
月山薫の声が聴きたい。
偉そうな、人を小馬鹿にする月山薫に会いたかった。
………笑顔が見たかった。
零れ落ちた涙を、手の甲で拭って夜空を見上げる。
俺……もう嫌われたのかなぁ…。
どこまでも暗い空に、堪えていた涙が溢れてくる。
会いたい……。
会いたいよ。
恋い焦がれる気持ちと、深く傷付く痛みに、これからどうすればいいのか分からず、途方に暮れるようにして、ただ涙を流しながら、夜空を見上げた。
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