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*絡まる感情・6*
「…!……で…奏くん!」
呼び声に、ハッと我に返ると、成瀬さんが厳しい表情で俺を見ていた。
「……はい」
遅れ気味に返事をすると、成瀬さんは溜息をつき、北川さんは短い笑い声を上げた。
「ちゃんとやれよ、監修だろ」
北川さんの注意に、「すみません…」と力なく頭を下げる。
「もういい……今日は、ここまでにしよう」
成瀬さんの打ち切りに、慌てて顔を上げる。
「大丈夫です!ちゃんとやります」
「いや、これ以上やっても意味がない。時間の無駄だ」
冷静な声で言い切られてしまい、何も言い返せなくなる。
「やる気あんのかよ」
聞こえる、ギリギリの小声で呟いた北川さんの言葉が胸に突き刺さる。
北川さんは、イライラした様子で荷物を纏め、誰とも言葉を交わす事なくブースを出て行ってしまった。
残された部屋の中には、成瀬さんが静かに楽譜を片付ける音だけが聞こえている。
「……すみません。今度からは、ちゃんとやります」
申し訳なくて俯く俺に、成瀬さんは淡々とした声で、「そうしてくれ」とだけ言った。
仕事にプライベートを持ち込むなんて、ほんと、何やってんだろ、俺。
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