3860人が本棚に入れています
本棚に追加
「初対面で、俺に食って掛かったのは、何処の誰だ?」
「そ…れは……」
俺です…。
当時を思い出して、恥ずかしさに俯くと、成瀬さんがクスクスと笑い出す。
「あんな風に喧嘩を売られたのは、初めてだった。なかなか新鮮だったよ。あっかんべーも、初めてだったな」
「その節は、色々と、すみませんでした…」
恥ずかしさに顔が熱くなる。
今思えば、怖いもの知らずにも程があるな、当時の俺。
「とにかく、早く連絡を取って、悩みを解消して仕事に身を入れてくれ。監修がそんな状態だと、非常に困る」
「……はい」
笑っていた成瀬さんの顔が真顔になり、「もし…」と言葉を続ける。
「もし、それでもまだ月山が君を泣かせるようなら、その時は君を攫っていくから、そのつもりで。月山は勿論、君にも嫌とは言わせない」
真っ直ぐ向けられる目が真剣で、成瀬さんが本気だと分かった。
「それが嫌なら、さっさと仲直りでもするんだな」
それだけ言うと、成瀬さんは今度こそブースを出て行ってしまった。
そんな成瀬さんの優しさが、とても温かく、それでいて切なく感じられた。
最初のコメントを投稿しよう!