冷徹貴公子は嫌な奴

18/47
前へ
/550ページ
次へ
グランドピアノを思わせる、黒いセダン。 月山薫の愛車だ。 助手席に座りながら、収まらない怒りを吐き出していた。 「うっせえ子ザルだな。いつまでもイライラしてんなよ」 運転に、前を向いたままの月山薫に言われて、怒りのメーターが少し下がるのが、自分でも分かった。 「だって…あいつ、あんたのピアノを馬鹿にするから……すっげえムカついたんだよ。あんたも、何も言い返さないしさ……なんか、納得出来ないっていうか…嫌だったんだ」 月山薫が言われっぱなしなのが嫌だった。 世界的ピアニストだろうと、何だろうと、こいつのピアノを馬鹿にされるのは我慢がならなかった。 「なんで、何も言い返さないんだよ…あんな言われ方、すっげえ悔しいじゃんか…」 シュンとしながら呟いた俺の頭を、前を向いたままの月山薫の片手が、ポンポンと優しく撫でる。 「俺は、別に気にしてねえよ。お前が代わりに言ってくれたしな。サンキューな」 ……ずるい。 そんな風に言われたら、嬉しくなるじゃんか…。 ストンと、さっきまでの嵐が嘘のように、怒りが落ち着いていく。 「……あいつとあんたって、どんな関係?」
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3859人が本棚に入れています
本棚に追加