恋人としての日常

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テレビには、指揮者と握手を交わすピアニストの姿が映し出されていた。 整った顔が、何だか冷たい印象を与える。 『成瀬さんは、【次世代の、ポスト桜庭征一郎(さくらば せいいちろう)】と名高いピアニストで、今、世界中から注目を集めています!』 女性アナウンサーの言葉に、思わずジッとテレビのピアニストを見つめる。 まるで、父さんの後継者のような扱いに、思わず睨み付けるような目付きになった。 因みに、桜庭征一郎というのは俺の父さんで、世界的ピアニストの一人だ。 確かに、このピアニストの演奏技術は一流だった。 でも、なんて言うか……。 『成瀬さんは、ピアノの腕も素晴らしいのですが、その美貌から、ピアノの貴公子と呼ばれ、女性ファンが急増中でもあ……』 そこで、プツリと消えた。 音声も、映像も、いきなり消えて無くなった。 「え?」 もしかして! 後ろを振り向けば、案の定、ソファーに座った月山薫(つきやま かおる)が、リモコンをテレビに向けていた。 「何で切るんだよ!人が見てんのに!」 文句を言う俺を無視して、月山薫は、手に持っていたリモコンを、ソファーテーブルの上に置いた。 「うっせぇな、サル。んな、つまんねぇモン見てんじゃねえよ」
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