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そんなの、欲しいなんて一言も言ってないんですけど?
「あの…」
「以上だ」
口を挟む間もなく、成瀬さんはメニューをウエイトレスの人に渡して、注文が終わってしまった。
「……それ」
去って行くウエイトレスの人を、未練がましく見送っていると、不意に話し掛けられた。
「え?」
「その人の演奏……よく聴くのか?」
先程買ったCDで、父さんの事だと分かるまで、数秒掛かった。
「……あ、はい」
答えた俺に、成瀬さんは、「そうか」とだけ返して、ジッとCDの入った袋を見つめる。
…………もしかして…この人…。
「あの、もしかして……好きなんですか?桜庭征一郎」
「なっ……」
ほんの少しだけ、成瀬さんの頬に赤みがさした。
どうやら、図星らしい。
なんだ、そういう事か。
「俺にCD買うなとか、倍払うって言ってたの、このCDが欲しかったからなんですね」
「そ、それは…!」
それなら、あの意味不明な言動も、理不尽な理屈も全部納得出来る。
なんだ…そっか…この人、父さんのファンなのか。
それだけで、一気に親近感を抱く。
この人に対して、心がオープンになっていくのが、自分でも分かった。
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