冷徹貴公子は嫌な奴

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彼に対して、何も思っていない俺が、思わずドキッとするくらいだ。 いつもの冷徹な表情なんてやめればいいのに。 勿体無いな、と思った。 きっと、微笑むだけで、この人は大半の事が上手くいきそうなのに。 それくらい、魅力的な笑顔なのに。 「これ、良かったら貰って下さい」 ギブアップする事なく、全て無理やり食べ切った。 ちょっと、胸焼けする……。 いつの間にか会計を済ませていた成瀬さんと店を出て、「ご馳走様でした」と深々と頭を下げた俺に、成瀬さんは満足そうな表情を浮かべた。 そして、二人してホテルを出ると、すっかり陽は暮れていて、街灯の明かりが道を照らしている。 先立って歩こうとする成瀬さんに、声を掛け、父さんのCDが入った袋を差し出した。 「いや、しかし…」 らしくなく戸惑いを見せる成瀬さんに笑いそうになるのを堪えつつ、更に袋を差し出す。 「同じファンとして、是非とも受け取って欲しいんです」 そう言うと、成瀬さんは両手で袋を受け取った。 「いくらだ?」 「いえ、いらないです!」 財布を出そうとする成瀬さんを、慌てて止める。
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