冷徹貴公子は嫌な奴

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*冷徹貴公子は嫌な奴・4* 「随分と遅かったな」 月山薫の家に着いたのは、二十時を過ぎた頃だった。 玄関のドアを開けると、少し不機嫌そうな月山薫が俺を出迎えた。 「あー…ごめん。大学の帰りに、CDショップを回ってたからさ」 靴を脱ぎながら説明する俺に、月山薫の鋭い眼差しが飛んでくる。 「CD?」 「今日発売の、父さんの新しいCD。なんか何処も売り切れでさ」 靴を脱ぎ終わり、壁際に立つ月山薫の前を通り過ぎて奥のピアノ室へと向かう。 そして、ピアノ室で、俺が作曲した楽譜を見てもらい、あれこれと話し合う。 いつもと同じ流れ。 「おい、サル」 だから、月山薫の動きに気が付かなかった。 「え?」 歩きながら振り返ろうとしたところで肩を掴まれ、そのまま壁に押さえつけられる。 状況を理解する間も無く、いきなり唇を塞がれた。 「……っ!」 口内を味わうような動きに、訳も分からないまま翻弄され、自分に何が起きているのか分かる暇もなく息が乱れていく。 暫くして月山薫がゆっくり離れていくと、へたり込みそうになる自分が、そこに居た。 「やけに甘いじゃねえかよ。何処で、何やってやがった?」 間近で射抜くような、全てを見透かしていそうな月山薫の目に、ドキッとする。
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