冷徹貴公子は嫌な奴

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「何って、喫茶店に行っただけだけど?」 別に、何もやましい事はしていない。 「……誰と?」 それなのに……。 「……大学の友達。珈琲とケーキ奢ってもらって」 月山薫に……嘘をついてしまった。 そんな俺の答えを訝しむように、ジッと無言で月山薫が見つめる。 隠す必要なんて、なかったのかもしれない。 だけど、月山薫の前で、『成瀬さん』の名前は出さない方がいいような気がした。 Hiding placeでの、二人のやり取りが、脳裏を掠める。 きっと、過去に何かあったに違いない。 ここで、成瀬さんの名前を出せば、確実に地雷を踏むような、そんな予感めいたものを感じた。 カンってやつだ。 「……そいつ、どんな奴だ?」 「どんなって……普通に良い奴だけど」 何かを疑っているのか、なかなか解放してもらえない。 探るような月山薫の眼差しと口調に、嘘をついた後ろめたさから、心臓がドキドキと早鐘を打ち、冷や汗が背中を伝い落ちていく。 「そいつも、クラシックなんかに興味があるのかよ」 言われて、大学の友人を思い起こす。 誰一人、クラシック音楽に興味を持ってる奴なんていない。
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