桜庭奏の正体

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追い付きたいのに、差が開く一方だ。 月山薫だけじゃない。 父さんも、卓人も、みんな先へと進んでいるのに、俺だけが立ち止まったままで、少しも前に進めていない。 どんどん、皆が遠ざかって行く。 別に、卑屈になってる訳じゃない。 でも、焦っても、もがいても皆に置いて行かれる……そんな泣きたくなる程の不安が、まるで背中合わせのように、俺の心の中にいつも存在している。 本当の俺なんて、そんなちっぽけな存在だ。 弱くて、情けない。 そんな自分が嫌だ。 だから必死に隠した。 そんな弱くて醜い自分を、月山薫には知られたくない。 嫌われたくない。 月山薫の存在が大きくなる程……好きになる程、今の自分が不安になる。 気持ちが通じ合えば、それで幸せだと思っていた。 でも、そうじゃない…。 それだけじゃない。 好きになればなる程、不安が大きくなるなんて思ってなかった。 片思いの時は、それこそ必死だった。 月山薫に幸せになって欲しくて、どうせ失恋するものと、自分の恋心を諦めて、奴の為だけに動いた。 だから、思いを返してもらえた時は、本当に嬉しかった。
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