桜庭奏の正体

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*桜庭奏の正体・2* ホールの中に入ると、独特の空気感に胸が騒いだ。 この感じ、この匂い……とても好きだ。 ロビーでは、一般客に混じって、クラシック関係者が笑顔を貼り付けて挨拶合戦をしている。 ここぞとばかりに名刺を配る人、名だたる先生に挨拶回りをする人、知り合いと一緒に輪を作り、クラシックについてうんちくを語り合う人達など様々だ。 はっきり言って、俺はあの雰囲気が苦手だ。 音楽は、聴いて楽しむものだと思うし、自分をより良く見せる為の道具じゃないと思うからだ。 中には、純粋に音楽を楽しんでいる人もいると思う。 でも、あのオーラ全開な空気は、やっぱり好きになれない。 そんな集団をスルーして、さっさと自分の席に座ると、さっき買ったばかりのパンフレットを開いた。 席は、S席の前の方。 右側の席が良かったけど、父さんの演奏する手元も見たかったから、中央よりもやや左側にしてもらった。 パンフレットに目を通していると、あっという間に開演時間になり、ロビーにいた客達が席へと座っていく。 少しトーンを落とした、沢山の話し声。 携帯の電源を落とす音。 会場の照明が変わり、いよいよかと期待で胸が踊る。
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