桜庭奏の正体

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表現の仕方によっては、この曲の美しい旋律の魅力が半減する。 ピアノの叩き方、強弱の付け方…どの曲でも言える事だけど、弾き手によって、かなり違ったものに聴こえると思う。 父さんは、『恋する乙女』を可愛らしく、明るく、そして美しく表現している。 パンフレットの曲目を思い出す。 次は、力強い派手な曲だ。 きっと、それで男性客のハートを掴むつもりでいるに違いない。 芸術的な父さんの音に聞き惚れて、暫くしてから、『それ』は訪れた。 ……………え? 不意に耳を掠めた違和感に、音の世界から現実へと引き戻される。 ………また…。 邪魔にならないよう、周囲を見渡してみるが、誰も気付いていないのか、みんな音に酔いしれ、父さんの奏でる音に集中しているようだ。 耳を澄まして、違和感の原因を探る。 ……あ……もしかして…。 違和感の原因は分かったけど、どうしてそうなったのかが分からない。 演奏している父さんの表情から読み取ろうとするけど、いつもと何一つ変わらない父さんの表情。 ……どうしたんだよ、こんな音…らしくない…。 冒頭の最初の方の音は、そんなコトなかったのに…。
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