桜庭奏の正体

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その違和感は、全ての曲目を弾き終えるまで続き、スタンディングオベーションの拍手に応えたアンコールの最後の曲まで、ずっと消える事はなかった。 演奏終了後。 どうしても気になった俺は、事前に渡されていた通行証を使って、楽屋前に来ていた。 関係者以外は通れないからと渡されたけど、本当は使うつもりなんてなくて、コンサートが終わったら、そのまま帰るつもりでいたのに……。 少し緊張気味に小さくノックをして、ドアを開けて顔を覗かせる。 「父さ……」 …………!!!!!!! 開き掛けた口を、慌てて口を閉ざした。 そこには、父さんと話す、成瀬さんの姿があった。 来てたんだ…。 余程、嬉しいのか、成瀬さんの目がキラキラと輝いている。 …………やっぱり、熱烈なファンなんだな。 いつも無表情に近い成瀬さんの顔が、まるで別人のように笑顔で満ち溢れている。 目なんて、少女マンガに出てきそうなくらいにキラッキラだ。 そこで、ハタと気が付いた。 そういえば、俺……自分が桜庭征一郎の息子って言ってない…。 いや、別に、敢えて言う事じゃなかったし。 ………でも、なんとなくマズい……気がする。
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