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ていうか、あんまり知られたくないし。
スルスルと、覗かせていた顔を引っ込めようとした時、不運にも父さんと目が合ってしまった。
あ……。
「奏、来てくれたのか。こっちに来なさい」
嬉しそうな父さんが、中に入るように促してくる。
見つかってしまったものは、仕方がない。
観念して、気まずさから遅い動作で中へと入る。
「なっ…!?犬…!」
中に入った俺を見た瞬間、成瀬さんは非難めいた目で俺を見た。
きっと、俺が忍び込んで来たとでも思ったんだろう。
母さんと卓人なら、通行証がなくても顔パスで通るかもしれないけど、俺はそうはいかない。
誰の目にも、通行証がなければ、俺なんてトチ狂った熱狂的ファンとしか映らないだろう。
「もう知っているとは思うが、彼は世界で活躍するピアニスト、成瀬蒼くんだ」
何も事情を知らない父さんが、俺に成瀬さんを紹介する。
「成瀬くん。私の息子の奏だ。奏、成瀬くんに挨拶しなさい」
そして、成瀬さんに軽く俺を紹介した父さんは、挨拶を促すように俺の腰に手を添えて、成瀬さんの前に押し出した。
……………。
その時の成瀬さんの顔といったら………可哀想になるくらい、青ざめていた。
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