桜庭奏の正体

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「え…?ですが、息子さんは…昨日…」 動揺しまくりの成瀬さんの質問に、父さんは何も気付かず、「あぁ」と、呑気に答えている。 「あれは次男だよ。奏は長男、つまり卓人の兄だ」 「…………」 あまりの衝撃なのか、声もなく、真っ青な顔で俺を凝視したまま固まる成瀬さん。 「はじめまして。桜庭征一郎の息子の、桜庭奏です。宜しくお願いします」 そりゃ、大好きな…崇拝している人の息子を、『素人』だの、『犬』だのと、さんざん好き勝手に貶したんだ。 顔色だって悪くもなるだろう。 そんな様子が、あまりに不憫に思えて、取り敢えずは初対面のフリをした。 「……はじめまして…成瀬蒼です」 意気消沈した成瀬さんは、震える声で、辛うじてそれだけを口にした。 「父さん、怪我でもした?」 取り敢えず、成瀬さんが落ち着くまで世間話を続けた俺は、折を見て、そう父さんに切り出した。 「……どうして、そんな事を聞く?」 否定しないで、答えを先延ばしする父さんの様子に、俺の中にあった一つの疑惑が、確信へと変わった。 「右手の人差し指、怪我してるだろ?音がブレてたし、鍵盤へのタッチが、いつもより若干弱かった」
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