桜庭奏の正体

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「ピアノは、どの程度まで弾けるんだ?」 「……弾けません」 「……何?」 「弾けないんです」 その時の成瀬さんの顔……。 驚愕で目が丸くなっていた。 このやり取りと、この反応……前にも見たな……。 「弾けない!?あれだけの耳とセンスをしておいて!?」 大きな声を上げた成瀬さんは、いきなり俺の手を掴んで、繁々と眺めた。 「……手が小さい訳じゃない。寧ろ、指が長くて理想的な手だ」 ポツリと呟くようにして言う成瀬さんの手も、指が長くて大きな手をしている。 これが、世界で活躍するピアニストの手か、と妙に感心した。 この手で、いくつもの名曲を奏でるんだ。 ジッと右手を見つめる成瀬さんの前に、左手を開いて見せた。 横一線に走る傷跡が残った左手。 その手を見た成瀬さんは、全てではないけど悟ってくれたらしい。 「左手だけ、極端に握力が弱いんです。リハビリで、生活するにはある程度問題ないくらいには回復しました」 咄嗟の行動、重たい物を持つとか、それらの行動は出来ないけど、右手で補えば大抵の問題は解決出来る。 ピアノは弾けないけど……。 「……すまない」
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