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申し訳なさそうに謝った成瀬さんは、掴んでいた俺の手を離した。
「いえ、こちらこそ、息子だという事、黙っててすみません。悪意があって、言わなかった訳じゃないんです」
「それは、もう分かっている」
そう言ってくれた成瀬さんは、チラリと俺の左手を横目で見る。
「その…その手は、事故か何かで?」
聞かれて、ドクンと胸が鳴った。
もう、乗り越えた過去だ。
月山薫のお陰で、随分と前向きにもなれた。
それでも、過去を口にするのは勇気がいる。
「……音楽学校の同級生たちに……妬みで…」
当時は、友人だと思っていた。
思い出して、思わず苦笑いを浮かべる。
「すまない。聞くべきじゃなかった」
ばつが悪そうな顔をした成瀬さんは、それ以上、俺の過去については聞いてこなかった。
「それじゃ、月山と仕事をしているというのは?」
暫く沈黙が続いた後、成瀬さんはそんな事を聞いてきた。
「俺が作った曲を、月山…さんに提供してるんです」
いつもの癖で、フルネームで呼び捨てにするところだった。
「君は、作曲をするのか?」
「はい。一応ですけど」
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