冷徹貴公子の依頼

2/24
前へ
/550ページ
次へ
*冷徹貴公子の依頼・1* ………さあ、どう話そう。 あれから時間が経ち、空には月が顔を出している。 Hiding placeの扉の前。 中で演奏をしているであろう月山薫の姿を思い出す。 どう考えても、逆鱗に触れるとしか思えなくて、中に入るのを躊躇ってしまう。 あいつ…絶対怒るだろうな……。 怒るだけなら、まだいい。 嫌われたら、どうしよう……。 そう思うと、足が竦んで一歩も動かなくなる。 月山薫と、成瀬さんとの間に何かあるのは、なんとなくだけど感じ取れた。 けど、月山薫は何も教えてくれない。 教えてくれない以上、俺からは何も出来ない。 それなのに、俺が変に気を遣うのもなんか違うような気がしてきた。 「ちょっと、入るの?入らないの?」 後ろから来た男性客に、店の前で立ち尽くしている俺は、怪訝な目で見られた、 「あ、すみません。入ります」 ここで、いつまでも突っ立ってたって仕方ない。 覚悟を決めて中に入ると、耳に馴染んだピアノの音が聞こえてきた。 店の奥に向かうと、演奏中の月山薫と目が合う。 俺を見た月山薫は、一瞬だけ、ふわりと甘い笑みを浮かべた。
/550ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3859人が本棚に入れています
本棚に追加