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*冷徹貴公子の依頼・1*
………さあ、どう話そう。
あれから時間が経ち、空には月が顔を出している。
Hiding placeの扉の前。
中で演奏をしているであろう月山薫の姿を思い出す。
どう考えても、逆鱗に触れるとしか思えなくて、中に入るのを躊躇ってしまう。
あいつ…絶対怒るだろうな……。
怒るだけなら、まだいい。
嫌われたら、どうしよう……。
そう思うと、足が竦んで一歩も動かなくなる。
月山薫と、成瀬さんとの間に何かあるのは、なんとなくだけど感じ取れた。
けど、月山薫は何も教えてくれない。
教えてくれない以上、俺からは何も出来ない。
それなのに、俺が変に気を遣うのもなんか違うような気がしてきた。
「ちょっと、入るの?入らないの?」
後ろから来た男性客に、店の前で立ち尽くしている俺は、怪訝な目で見られた、
「あ、すみません。入ります」
ここで、いつまでも突っ立ってたって仕方ない。
覚悟を決めて中に入ると、耳に馴染んだピアノの音が聞こえてきた。
店の奥に向かうと、演奏中の月山薫と目が合う。
俺を見た月山薫は、一瞬だけ、ふわりと甘い笑みを浮かべた。
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