3859人が本棚に入れています
本棚に追加
そっか……それで、ここで演奏会をしたいんだ。
息子として会いに行けない代わりに、演奏会っていう形で、会いに来たのか…。
「それじゃ、公にしたくない理由って…」
そう言った俺に、成瀬さんは苦笑を浮かべる。
「一応、これでも有名人だからな。変に騒ぐような輩が出てくるかもしれない。そうなると、両親にも、この施設にも迷惑が掛かる。それだけは避けたい」
……有名人っていうのも、大変なんだな。
会いたい人に、会いたい時に会えないなんて……そんなの、やっぱり嫌だ。
頭の中を、月山薫の顔がよぎる。
好きな人には、会いたい時に会いたい。
「だから、君に監修をしてもらいたいんだ。名前は知られていなくても、確かな実力がある人間と仕事をしたい。この演奏会だけは、失敗したくない」
名の売れた人間を使えば、そこから勘付かれる可能性がある。
それでも、思い入れのある演奏会は成功させたい。
そういう事なんだと思う。
成瀬さんは、演壇から下りると、突然に振り向いて俺を見た。
「そういえば、何か話があると言っていたな?何だ?」
………………よりによって、このタイミング。
あんな話を聞いた直ぐ後、断るにしても、かなり言いにくい。
最初のコメントを投稿しよう!