冷徹貴公子の依頼

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そっか……それで、ここで演奏会をしたいんだ。 息子として会いに行けない代わりに、演奏会っていう形で、会いに来たのか…。 「それじゃ、公にしたくない理由って…」 そう言った俺に、成瀬さんは苦笑を浮かべる。 「一応、これでも有名人だからな。変に騒ぐような輩が出てくるかもしれない。そうなると、両親にも、この施設にも迷惑が掛かる。それだけは避けたい」 ……有名人っていうのも、大変なんだな。 会いたい人に、会いたい時に会えないなんて……そんなの、やっぱり嫌だ。 頭の中を、月山薫の顔がよぎる。 好きな人には、会いたい時に会いたい。 「だから、君に監修をしてもらいたいんだ。名前は知られていなくても、確かな実力がある人間と仕事をしたい。この演奏会だけは、失敗したくない」 名の売れた人間を使えば、そこから勘付かれる可能性がある。 それでも、思い入れのある演奏会は成功させたい。 そういう事なんだと思う。 成瀬さんは、演壇から下りると、突然に振り向いて俺を見た。 「そういえば、何か話があると言っていたな?何だ?」 ………………よりによって、このタイミング。 あんな話を聞いた直ぐ後、断るにしても、かなり言いにくい。
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