冷徹貴公子は嫌な奴

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フッと照明が落ちて、ロウソクの暖かみのある光が、辺りを幻想的に照らす。 すると、月山薫の長くて綺麗な指が動き出し、耳に馴染みのあるメロディーを生み出した。 Happy Birthday to You。 お馴染みの、バースデーソングだ。 軽快なリズムで、カッコよくアレンジされたHappy Birthday to Youに、思わず目頭が熱くなる。 優しい、とても良い表情で、月山薫が鍵盤を叩いて音を奏でてくれる。 こんな風に、祝ってくれるなんて思ってなかった。 あの月山薫の音が、俺だけの為に鳴り響いている。 あの音を、独り占めしている。 今まで聴いた、どのHappy Birthday to Youよりも優しく温かい音で、感動と喜びに胸が震えた。 演奏が終わると、その場にいる全員が、「ハッピーバースデー!!誕生日、おめでとう!!」と、大きな声と拍手で祝福してくれる。 そんな皆の気持ちが嬉しくて、目に涙を滲ませながら、一気にロウソクの火を吹き消した。 拍手の祝福の中、月山薫を見れば、泣いている事をからかうような表情を浮かべながら、『おめでとう』と唇が動いたのが見えた。 「二十歳おめでとうー。ようこそ、大人の世界へ」 そんな、ちょっとセクハラめいた歓迎をしてくれたのは、三國義彦(みくに よしひこ)さん。
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