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*冷徹貴公子の依頼・5*
「……………」
馬鹿だ……。
あんなに、断るって決めてたのに…。
月山薫の住むマンションを、絶望的な気持ちで見上げる。
……あいつに、なんて説明しよう。
『母親の事は、誰にも言わないでくれ』
そう成瀬さんに言われ、俺は、誰にも言わない事を約束してしまった。
約束してしまった以上、月山薫に、その事を言うつもりはない。
人のプライベートを、恋人だからと、話してしまうのは違うと思うからだ。
でも、それじゃあ、何て説明しよう?
成瀬さんのプライベートな部分を抜くと、ただ引き受けましたとしか、他に言いようがない。
それで、あの月山薫が納得するかな?
いや、納得してもらうしかないんだけど……。
嵐のようにして店を出て行った、月山薫を思い浮かべる。
………なに言っても、火に油を注ぐような気がする。
でも……。
仲直りはしたい。
仲直りっていうのも、なんか変だけど。
自分が悪いなんて思ってないけど………少しも……ちょっとしか。
それでも、このままは嫌だ。
……よし!
気合を入れるように、自分の頬を、両手で挟むように叩いた。
「……入れ」
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