冷徹貴公子の依頼

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玄関ドアを開けた月山薫は、俺に低い声で、そう言った。 「……お邪魔します」 中に入り、靴を脱いで上がると、先に歩く月山薫を追い掛けて、リビングへと入る。 先に入っていた月山薫は、ヤカンに水を入れて、ガスコンロに火をつけていた。 それを眺めつつ、ソファーに腰を下ろすと、鞄をソファーの傍に置く。 珈琲を用意する月山薫の様子を、そっと窺う。 決して機嫌が良いとは言えないが、この前のような超不機嫌っていう感じでもない。 ……引き受けたって言ったら、またキレんのかな? そう思ったら、胃が重くなってくる。 言い合いがしたい訳じゃない。 それでも、月山薫に怒鳴られると、思わず言い返してしまう自分の悪い癖をなんとかしたい……。 今日は、冷静に話し合うぞ。 この前みたいな事にはしないし、しでかさないぞ。 心の中で呟いて気合いを入れていると、珈琲の独特な深みのある良い香りが鼻腔を擽ってきた。 それから程なくして、珈琲の入ったカップを両手で持った月山薫が来て、俺の前と自分の座る場所の前にカップを置く。 「ありがとう」 隣に座る月山薫に声を掛け、目の前にあるカップを手に取ると、一口飲んだ。
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