冷徹貴公子の依頼

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隣の月山薫も、カップに口を付けている。 それに釣られるようにして、また一口飲んだ。 珈琲の香りと味に、心が落ち着いていくのが分かる。 暫く、二人して珈琲を無言で飲む時間が過ぎ、なんともいえない空気が流れた。 居心地が悪い訳でも、良いわけでもない。 なんとなく、お互いに、お互いの様子と機嫌を探り合っているような空気だ。 なんかシュールな空気感……。 「……あのさ」 いつまでも二人して珈琲を飲んでいる訳にもいかなくて、緊張感気味に話を切り出した。 「……なんだよ」 「成瀬さんの仕事…受けたから」 言った! その次に来るであろう、怒鳴り声と不機嫌オーラに身構える。 …………。 ……あれ? いつまで経っても聞こえてこない状況に、恐る恐る隣を見ると、不機嫌そうな顔をしながらも、ジッと前だけを見据えている月山薫の姿があった。 「……ふーん」 それだけ答えた声は、やっぱり不機嫌そうな声だったけど、それ以上は特に何もない。 「……えっ…と、いいのか?」 「別に。好きにすりゃいいんじゃねぇ?」 ……ビックリした。 絶対に反対されたり、怒り狂うと思っていただけに、月山薫の、この反応は予想外で、反対になんか不安になってくる。
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