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*前途多難な初仕事・2*
「彼が、今回のもう一人のピアニスト、北川圭介(きたがわ けいすけ)だ」
そう成瀬さんに紹介してもらったのは、演奏会に参加する、もう一人のピアニスト、北川さんだった。
「……初めまして」
成瀬さんに連れられて来たのは、街中にある音楽スタジオ。
今日は、北川さんとの初顔合わせ、そして初リハーサルの日だ。
痛んだような茶髪、そして両耳には沢山のピアス…。
見た目で偏見するのは良くないけど、一見、クラシックピアノを弾くようには見えなかった。
そして、何より俺が拒絶反応を示したのは、そんな見た目じゃなくて……。
クチャクチャと耳障りな音を立てる、口の中のガムだった。
人と挨拶するっていう時に、ガムなんか噛んでる神経が理解出来ない。
月山薫の、ピアノのランプ台に置いてある灰皿よりも理解出来ない。
寧ろ、理解したいとも思わない。
「こちら、今回の監修を務めてもらう、桜庭奏くんだ」
成瀬さんの紹介に、北川さんは馬鹿にしたような目で俺を一瞥すると、言葉もなく軽い会釈だけをしてきた。
……舐められてる。
ガキだと思って、完全に舐められてる。
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